東京地方裁判所 昭和63年(ワ)17428号 判決 1993年5月28日
神奈川県藤沢市湘南台五丁目三六番地の五
原告
元旦ビューティ工業株式会社
右代表者代表取締役
舩木元旦
右訴訟代理人弁護士
鳥海哲郎
同
中田順夫
右訴訟復代理人弁護士
藤本幸弘
同
橋本健
東京都新宿区西新宿七丁目一〇番三号
被告
株式会社日建板
右代表者代表取締役
瀧森清
右訴訟代理人弁護士
大場正成
同
尾崎英男
同
大平茂
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、別紙目録(二)記載の横葺き金属屋根板を製造販売してはならない。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 不正競争防止法一条一項一号の規定に基づく請求
(一) 原告は、昭和六〇年九月以降、別紙目録(一)記載の横葺き金属屋根板(以下「原告商品」という。)を製造販売している。
(二) 原告商品が組み合わされた形態(以下「原告商品の組合せ形態」という。)は、次に述べるとおり、原告の商品たることを示す表示として広く認識されている。
(1) 屋根板は、保存したり、運搬したりする際には、個々の形で積み重ねられているが、個々の形でそのまま使用されることはなく、組み合わされて使用されるものである。取引者又は需要者は、屋根板を購入する際、個々の屋根板の外観を見て購入か否かを決するのではなく、個々の屋根板が組み合わされた屋根全体の形態を見て購入するか否かを決するのである。したがって、屋根板が組み合わされた形態は、商品たることを示す表示に当たり、原告商品の組合せ形態も、原告の商品たることを示す表示に当たる。
(2) 原告商品の組合せ形態は、別紙図面(1)のとおりであって、下ハゼが数ミリメートルないし数十ミリメートル立ち上がり、その上部にハゼ部が形成され、また上ハゼ部が下ハゼ部よりも軒先側に突出した形状になっている。その特徴は、<1>屋根板と屋根板との継ぎ目の段差が、従来の屋根と比べて著しく大きく、高くなっているため、横のラインが一層強調され、段葺きの重厚なイメージが表現されていること、<2>ハゼ部の下部にくぼみがあること、<3>屋根に組み立てたとき、視覚的に、屋根面が従来の屋根と比べ立体化し、明度差のある多様な段部を形成し、意匠上の美観を備えていること、以上の点にある(以下「<1><2><3>の特徴」等という。)。
すなわち、従来の横葺き金属屋根は、下ハゼに立ち上がり部が全くない点に特徴があったのであるが、原告商品は、前述のようなハゼ構造(段角ハゼ)を採用することによって、従前、平面的でデザイン上単調になりがちであった横葺き金属屋根の中にあって、右特徴にみられるとおり、意匠上美観にあふれ、他に類をみない独特の形状としたものである。
(3) 原告は、次のとおり、原告商品及びその組合せ形態の宣伝広告をした。
すなわち、原告は、昭和六〇年九月一九日、東京国際貿易センター南館の展示会場(晴海見本市会場)において、原告商品を中心とする原告の新製品の発表会を開催した。右発表会には、建築設計事務所、大手総合建設業者、代理店、板金店、特約店その他業界の関係者多数が訪れたばかりか、新聞社、雑誌社の記者、編集者数十名が取材のために訪れた。右発表会で発表された原告商品は、その形態の特徴の故に大変な話題を巻き起こし、右発表会の記事は、日刊工業新聞、鉄鋼新聞、日刊建設産業新聞、日刊金属特報、日刊工業経済新聞、日経産業新聞、建築新聞、金物週報、日本住宅新聞、材料新聞、鉄二建材、建通新聞、雑誌等に掲載された。原告は、その後も、日刊工業新聞、東京金物週報、板金新聞、全私学新聞等の新聞、日経アーキテクチュア、新建築、鋼板建築、板金ジャーナル、建築文化、近代建築、建築画報、SD、ディテール、建築知識、積算資料、建築物価等の雑誌やテレビ、ラジオを通じて、原告商品及びその組合せ形態の宣伝広告を継続的に行ってきた。
テレビを例にとると、原告は、神奈川テレビの87ゴルフトーナメント、ワールドスーパーゴルフ、ゴルフ・レッスン・吉川なよ子のミックスゴルフなど一般視聴者に人気の高い娯楽番組に原告商品のコマーシャルを放映してきた。このコマーシャルは、原告商品の一般的な紹介にとどまらず、屋根板多数の組合せや葺き上った状態の写真を写し出し、また屋根板の組合せ断面図をダンカクハゼ断面図という文言付きで紹介し、これをアップで写し出すものであった。
更に、原告は、数多くの発表会、展示会、講演会を通じて原告商品及びその組合せ形態の宣伝を行ってきた。
(4) 原告商品は、次のとおり、市場において高いシェアを占めている。
まず、あらゆる屋根のうち屋根面積で約二〇パーセントが金属屋根であり、金属屋根材の工法別市場規模をみると、金属屋根材の工法は、折版、瓦棒葺き、横葺き、金属瓦、ステンレス防水屋根の五つに分類されるが、そのうちの横葺きは、金属屋根の約一割を占め、折版に次いで二番目に多く採用されている工法である。また、その市場規模も、年々高成長で増大している。次に、横葺き金属屋根板の市場におけるメーカーシェアの統計によると、原告のシェアは、昭和六〇年度が四二・六パーセント、昭和六一年度が三九・九パーセント、昭和六二年度が三八・二パーセント、昭和六三年度が三四・三パーセントである。業界第二位のザンテインが七・一ないし一〇・〇パーセントであるから、これと比較すると、原告のシェアは、第二位を大きく引き離している。
また、原告商品は、スリランカ国会議事堂、佐賀県立九州陶磁文化館、福島博物館、真光文明教団大本殿、ヤングピラミット等の内外の著名な建築物を初め多くの学校、体育館、文化公共施設、工場、レジャー施設、集合住宅等の大型建築に採用されている。
(5) 原告商品の宣伝広告、販売実績などによって、原告商品は、各種新聞等において、「金属屋根の横葺きブームを引き起こした」、「横葺き金属屋根の代名詞として業界内に広く流布している」、「画期的なハゼ形状」などと紹介されるようになっていった。
(6) 以上のとおり、原告商品の組合せ形態は、その形態の特異性の故に、昭和六二年五月頃には原告の商品たることを示す表示として広く認識されるに至ったものである。
(三) 被告は、別紙目録(二)記載の横葺き金属屋根板(以下「被告商品」という。)を製造販売している。
(四) 被告商品が組み合わされた形態(以下「被告商品の組合せ形態」という。)は、被告の商品たることを示す表示であるところ、原告商品の組合せ形態と類似している。すなわち、被告商品の組合せ形態は、別紙図面(2)のとおりであって、下ハゼが約一〇ミリメートル立ち上がり、その上部にハゼ部が形成され、また、上ハゼ部が下ハゼ部よりも軒先側に突出した形状になっている。その特徴は、<1>屋根板と屋根板との継ぎ目の段差が、従来と比べて大きく、高くなっているため、横のラインが一層強調され、段葺きの重厚なイメージが表現されていること、<2>ハゼ部の下部にくぼみがあること、<3>屋根に組み立てたとき、視覚的に、屋根面が従来の屋根と比べ立体化し、明度差のある多様な段部を形成し、意匠上の美観を備えていること、以上の点にある。したがって、被告商品の組合せ形態は、原告商品の組合せ形態と類似している。
(五) 被告は、被告商品を製造販売して原告商品と混同を生ぜしめている。
(六) 原告は、被告の右混同行為によって、営業上の利益を害されるおそれがある。すなわち、原告は、厳格な商品管理のもとにおいて、原告商品を製造販売しているものであって、原告商品は、水密性、耐久性その他技術的に優れているばかりか、意匠的にも非常に優れているため、一般的に高い評価、信用を得ているものである。そして、原告商品の組合せ形態は、その特徴の故に原告商品のシンボルとなっているのである。他方、被告商品は、原告商品の組合せ形態のみを模倣したものであって、原告商品のような厳格な商品管理に服していないものである。したがって、原告は、被告の混同行為によって、原告の商品表示で原告商品の組合せ形態が有する品質保証機能、顧客吸引力を害され、ひいては、原告商品のイメージ及び売上の減少によって原告の営業上の利益が害されるおそれがある。
(七) よって、原告は、被告に対し、被告商品の製造販売の差止めを求める。
2 不正競争防止法一条一項二号の規定に基づく請求
(一) 原告が原告商品を製造販売していることは、前記1(一)のとおりである。
(二) 原告商品の組合せ形態の特徴、原告商品の宣伝広告等は前記1(二)のとおりであって、これによれば、原告商品の組合せ形態は、原告の営業たることを示す表示としても広く認識されているものである。
(三) 被告が被告商品を製造販売していることは、前記1(三)のとおりである。
(四) 被告商品の組合せ形態が原告商品の組合せ形態と類似していることは、前記1(四)のとおりである。
(五) 被告は、被告商品を製造販売して原告の営業上の施設又は活動と混同を生じせしめている。
(六) 原告は、被告の右混同行為によって、前記1(六)のとおり、営業上の利益を害されるおそれがある。
(七) よって、原告は、被告に対し、被告商品の製造販売の差止めを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1(一)のうち、原告商品の販売開始時期は知らないが、その余は認める。
同1(二)のうち、原告商品の組合せ形態が別紙図面(1)のとおりであることは認め、その余は否認する。
同1(三)は認める。
同1(四)のうち、被告商品の組合せ形態が別紙図面(2)のとおりであることは認め、その余は否認する。
同1(五)及び(六)は否認する。
2 請求原因2(一)のうち、原告商品の販売開始時期は知らないが、その余は認める。
同2(二)のうち、原告商品の組合せ形態が別紙図面(1)のとおりであることは認め、その余は否認する。
同2(三)は認める。
同2(四)のうち、被告商品の組合せ形態が別紙図面(2)のとおりであることは認め、その余は否認する。
同2(五)及び(六)は否認する。
三 被告の主張
1 原告商品の組合せ形態が商品表示又は営業表示に当たるか否か並びに商品表示又は営業表示としての周知性について
(一) 原告商品の組合せ形態は、原告の商品表示でも営業表示でもない。
すなわち、商品の形態に商品表示性が認められるのは、需要者が当該商品自体を見ることによってその形態を看取することができ、その形態によって商品の出所を判別することができる場合である。ところが、原告が原告商品の組合せ形態であると主張する屋根板の組合せというのは、商品自体の有する形態ではなく、屋根板をどのように組み合わせるかという屋根板の構造ないしは機能を説明するために準備された手段にすぎない。すなわち、需要者が取引の過程において直接見る商品の形態は、一枚一枚の屋根板か、それを用いて葺かれた屋根である。これに対して、需要者が屋根板の組合せを見ることができるのは、パンフレットの解説図か、あるいは原告の営業担当者が販売の際に持ち歩くセットサンプルを見る時だけである。そして、この場合のパンフレットには、必ずメーカーの名が明記されており、また営業担当者は、どの会社の者であるかを需要者に明らかにするのである。したがって、仮に原告商品の組合せ形態に原告が主張するような<1><2><3>の特徴があったとしても、それは、パンフレットや営業担当者の説明を通してなされる屋根板の構造や機能の内容を表現したものにすぎず、原告の商品表示に該当しない。
(二) また、原告商品の組合せは、原告の主張するような<1><2><3>の特徴を示しておらず、この点においても、原告の商品表示ではない。
すなわち、一般に商品の形態が商品表示となりうるのは、その形態自体に需要者の注意を引く顕著な特徴がある場合である。ところが、原告が原告商品の組合せ形態の特徴として主張している意匠上の美観というのは、屋根板が葺かれてはじめて認識しうるものであるから、仮にその美観の構造的原因が屋根板の組合せにあるとしても、屋根板が葺かれる前の屋根板の組合せ自体からは、需要者の注意を引く特徴を看取することができない。したがって、原告商品の屋根板の組合せ自体に原告の主張する特徴を認めることはできない。
また、原告が主張する<1><2><3>の特徴を有する屋根、あるいは、それに類似した屋根は、原告が原告商品を製造販売以前に多数存在しているのであって、原告が特徴であるという点には、新規性も独自性もない。すなわち、
(1) 昭和四六年六月建築の東京都港区所在の「ホテルパシフィック東京」正面玄関(検乙第三号証)には、同年一○月発行の「ディテール」三〇号(乙第一号証の一ないし四)の三七頁の「軒先詳細図」からも明らかように、原告が原告商品の組合せ形態の特徴であると主張する<1><2><3>の特徴を有する屋根が用いられている。
(2) 東京都新宿区所在の「常圓寺」の屋根(検乙第四号証)も、原告が右特徴であると主張する点を有している。なお、右常圓寺の屋根の写真と原告商品の施工例の写真(甲第三号証の一及び二の各一二頁右下の写真)との比較からも分かるように、常圓寺の屋根と原告商品の屋根とは、屋根として葺かれた状況での外観も極めて類似している。
(3) 「林式スタンディング・デッキ工法」は、昭和四四年七月二〇日初版の「建築板金材料便覧」七四、七五頁(乙第二号証)に掲載され、紹介されているように、原告が右特徴であると主張する点が見られる。なお、一九八三年版の「亜鉛鉄板・着色亜鉛鉄板性能構法ハンドブック」二九四頁図三・一一三<3>(乙第三号証)にも、右工法の図が示されている。
(4) 昭和六〇年一月一九日公開の特開昭六〇-一〇〇五一号公開特許公報二九八頁左下一三行ないし一八行、第8図(乙第四号証)にも、原告が右特徴であると主張する点が示されている。
(三) 原告商品の屋根板の組合せは、原告の営業表示ではありえない。営業表示というのは、氏名や商号、例えば、マクドナルドのマークのような営業上の施設や営業活動の主体の表示のことであって、屋根板の組合せが原告の営業表示であるとは、およそ考えられないことである。「ダンカク屋根」という名称は、原告の営業表示に関係があるとしても、屋根板の組合せが営業表示であるとはいえない。
(四) 原告は、原告商品及びその組合せ形態を強力に宣伝してきた旨主張しているところ、原告が主張立証すべき事実は、原告商品の組合せを需要者に知らしめるよう十分宣伝広告することであるが、原告が提出している宣伝用パンフレットをみても、その中には原告が商品表示と主張する別紙図面(1)に相当するものはほとんど見当たらない。また、別紙図面(1)のような図は、原告商品の機能を説明するためのものにすぎない。原告のこのような宣伝によって、原告商品の組合せが商品表示として当然に周知になるものではない。
また、誰にとって周知であるかが問題となるが、仮に建設会社や設計事務所のような専門家にとって周知性が認められるとしても、これら専門家は、屋根板の組合せによって原告商品と被告商品とを取り違えるということはない。また、もし一般需要者が周知性の主体であるとしても、一般需要者は、原告が周知性の立証として提出する雑誌類を購入しているとは思われない。周知性の立証はないといわざるをえない。
2 混同のおそれについて
前1(一)のとおり、原告商品の組合せ形態は、屋根板の構造ないしは機能を説明するために準備された手段にすぎず、需要者がこれを見ることができるのは、パンフレットの解説図か、あるいは営業担当者が販売の際に持ち歩くセットサンプルを見る時だけである。したがって、それらに示されている屋根板の組合せがどこの会社のものであるかは、常に明らかであって、混同のおそれはない。
また、需要者は、葺かれた屋根を見て、そこでその屋根を買うのではない。もし需要者が原告商品を買いたいと思えば、原告又はその代理店に注文するのである。原告に注文した者は、被告商品を原告商品と間違えて購入するということはありえない。実際の取引形態をみても、屋根板の注文は、建設会社や設計事務所が、どの会社の屋根板を使うかを決めて、原告や被告に対して行うのである。屋根板の取引形態は、需要者が小売店に行って購入するような取引形態ではなく、注文取引である。したがって、仮に一般需要者が被告の葺いた屋根を見て原告商品と見誤ることがあるとしても、需要者は、建設会社等を通じて原告商品を原告に注文するのである。実際の取引において、混同のおそれは全く存在しない。
なお、仮に原告のパンフレットやセットサンプルと被告のそれらとが類似しているとしても、被告を原告の代理店と勘違いするなどという論理的必然性はない。
3 営業上の利益を害されるおそれについて
仮に需要者が被告商品の組合せ形態を見て原告商品と混同したとしても、需要者は、原告のところに注文に来るはずであるから、原告には営業上の損失はなく、むしろ、余得を得ることになる。一般に、ある商品を他社商品と混同し、それによって他社に損害を与えるのは、需要者が混同し、その場でそれを購入することによって生じるものであるところ、本件にあっては、混同の結果、原告のところに注文に来るのであるから、原告に損害が生じる余地はない。屋根板のような商品の取引形態の場合には、不正競争防止法違反の問題になりえないのである。
4 原告の差止請求の対象について
不正競争防止法一条一項一号の規定に基づく差止請求の対象は、原告の商品表示と同一又は類似の被告の商品表示を使用し、又はこれを使用した商品を販売するなどして混同を生ぜしめる行為である。これを本件についてみるに、原告の主張によれば、差止請求の対象は、屋根板の組合せを商品表示として使用すること、あるいは、屋根板の組合せを商品表示として使用した商品を販売することになるはずである。ところが、原告は、個々の屋根板に商品表示性がないことを事実上認めて、個々の屋根板の形態を原告の商品表示として主張していない。そして、原告は、屋根板の組合せを商品表示として主張するものであるが、個々の屋根板に屋根板の組合せが商品表示として使用されているということはありえない。しかるに、原告は、被告に対し、個々の屋根板の販売行為の差止を求めているのである。原告の差止請求は、失当である。
四 被告の主張に対する原告の反論
1(一) 被告主張1(一)について
需要者が葺かれた屋根を見る場合に、屋根全体を見ないで、その一部分に着目すれば、看取する商品の形態は、屋根板の組合せとなり、また、更に狭い範囲に着目すれば、看取する商品の形態は、一枚の屋根板となる。このように、葺いた屋根全体も、屋根板の組合せも、一枚の屋根板も、需要者が直接看取しうる商品の形態に何ら変わりがない。商品の構成部分が商品表示たりうることは、一般に認められているところであって、屋根板の組合せも商品表示になりうるのである。また、屋根板の組合せを見ることができるのは、パンフレットの解説図か、あるいは、原告の営業担当者が販売の際に持ち歩くセットサンプルを見る時だけではない。需要者は、葺かれた屋根を見た場合に、屋根板の組合せに着目すれば、原告が原告商品の組合せ形態の特徴として主張している点を容易に看取しうるのである。更に、パンフレットやセットサンプルによって、屋根板の組合せが構造や機能の説明に供されることはあるが、それと同時に、屋根板の組合せというのは、商品の形態の特徴として、商品表示ともなりうるのである。
(二) 被告主張1(二)について
原告は、請求原因1(二)(2)において、原告商品の組合せ形態の特徴として<1><2><3>のの特徴を主張しているところ、<1>及び<2>の特徴は、屋根板が葺かれて初めて認識しうるものではなく、屋根板の組合せ自体から容易に看取しうるものである。また、<3>の特徴は、確かに、屋根板が葺かれた場合によりよく認識することができるが、より緻密に考察すると、葺かれた屋根自体は、個々の建築物の具体性に応じて無限の形状、無限の意匠上の美観を有しているのであって、葺かれた屋根自体には、同一の商品の形態や意匠上の美感は存在しないのである。結局、<3>の特徴は、葺かれた屋根の個々の建築物としての具体性を捨象したところに存在するのであって、それは、屋根板の組合せ、又はその連続形態にほかならない。
また、
(1) 被告が主張する「ホテルパシフィック東京」正面玄関にみられるのは、屋根ではなく、パラペット・パネルと呼ばれる外壁の化粧の一種でしかない。そして、外壁の化粧として使用される場合でも、水漏れの可能性が大きいため、専ら垂直部分に使用され、水平部分に使用されることはない。正面玄関の屋根に当たるのは、外壁の上の平らな陸屋根部分であるが、その形状は、平面的であって、原告商品とは大きく異なる形状のはずである。
(2) 被告は、「常圓寺」の屋根その他を原告商品と類似する屋根の例として挙げるが、これらは、複数の金属板を組み合わせた構造の金属屋根である以上、上になる金属板と下になる金属板をその接合部で組み合わせるために、下ハゼに立ち上がりがないものはなく、また、上ハゼが下ハゼより前に出ないものはない。原告が原告商品についていう下ハゼの立ち上がりというのは、ハゼの前の立ち上がりともいうべきものであって、単に下ハゼ自体が立ち上がっているのとは異なる。原告商品は、ハゼ前の立ち上がりによって、従来の横葺き屋根板と比べ、立ち上がりと奥行を増し、著しく立体感を増したのである。なお、今日の一般的な金属屋根板は、ロール成形により、一定の規格に従った設計寸法によって作られるのに対し、常圓寺の屋根は、手加工かつ現地加工によって作られる、いわゆる神社仏閣の建造物のため、旧来の工法による段葺屋根として作られたものであって、全くの例外的なものである。
(3) 林式スタンディングデッキ工法や特開昭六〇-一〇〇五一号公開特許公報に示されているものは、いずれもハゼ前の立ち上がりを有しない形状であるばかりか、実際に施工されたものであるか否かについて疑いがある。
(三) 被告の主張1(三)について
原告は、原告商品を「ダンカク屋根」と命名し、その発表直後から、原告商品を「元旦のダンカク」「ダンカクは元旦」と称して強力に宣伝してきた結果、原告商品の組合せ形態は、原告の営業をもイメージさせるようになった。
2 被告の主張2について
前1(一)のとおり、需要者が葺かれた屋根を見た場合は、屋根板の組合せ部分から、原告商品の組合せ形態の特徴を容易に看取しうるのである。その場合に、葺かれた屋根には、どの会社のものであるかは表示されていないのが通常であるから、需要者がどの会社の屋根板を使うかを決定する際に、原告商品と被告商品とを混同するおそれが十分にありうる。また、原告のパンフレットやセットサンプルと被告のそれらとは、その内容が極めて類似しているため、需要者は、被告を原告商品を取り扱う原告の代理店の一つと勘違いしたり、又は原告からOEM供給を受けて販売しているものと勘違いして、被告と取引してしまうおそれが十分ありうる。また、設計事務所又は建設会社は、屋根を設計図に入れたり、又は屋根を発注する際に、被告商品のカタログやセットサンプルを見せられると、これを原告商品と混同して、被告に対して被告商品を発注したり、又は被告を原告の代理店と勘違いして被告と取引をしてしまうことが十分考えられる。
3 被告の主張3について
営業上の利益を害されるおそれには、周知の商品表示の宣伝効果が減殺され、宣伝のために投下した資本が十分に回収されず、広告努力に重大な支障を来すことも含まれる。原告は、被告の混同行為により、原告商品の商品表示の宣伝効果が大きく減殺されている。
4 被告の主張4について
不正競争防止法一条一項一号所定の「使用」には、商品の出所の混同を起こすに足りる行為のすべてが含まれるのであって、被告の被告商品の製造販売行為も、右の使用に当たるものというべきである。
第三 証拠関係
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 請求原因1、2の各(一)のうち、原告商品の製造販売開始時期の点を除いた点、請求原因1、2の各(二)のうち、原告商品の組合せ形態が別紙図面(1)のとおりであること、請求原因1、2の各(三)の事実及び請求原因1、2の各(四)のうち被告商品の組合せ形態が別紙図面(2)のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 成立に争いがない甲第九号証ないし甲第五〇号証、弁論の全趣旨により原告主張のような写真であることが認められる甲第五五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第一三一号証によれば、
1 原告は、昭和六〇年春頃、商品名を「新元旦ルーフ」とする横葺き金属屋根板を開発し、同年九月、下ハゼ部が立ち上がり、下ハゼ部と上ハゼ部が同一平面をなす組合せ形態(上ハゼ部が下ハゼ部より軒先方向に突出しない組合せ形態)の新製品を発表したこと、
2 原告は、雑誌「日経アーキテクチュア」に、継続的に、「段角ハゼ構造」又は「元旦ルーフ」との横葺き金属屋根板の広告を掲載しているところ、昭和六〇年一二月三〇日号(甲第九号証)から昭和六一年一月二七日号(甲第一一号証)までは、右のような、下ハゼ部が立ち上がり、上ハゼ部が下ハゼ部より軒先方向に突出していない組合せ形態の横葺き金属屋根板を広告していたが、同年四月二一日号(甲第一六号証)から、下ハゼ部が立ち上がるとともに、上ハゼ部が下ハゼ部より軒先方向に突出する組合せ形態の横葺き金属屋根板(原告商品)を広告するようになったこと(同年二月一〇日号ないし同年四月七日号においては、その組合せ形態は判然としない。)、
3 原告は、雑誌「新建築」に、ほぼ継続的に、「段角ハゼ構造」又は「元旦ルーフ」と称する横葺き金属屋根の広告を掲載しているところ、昭和六〇年一〇月号(甲第三四号証)から同年一二月号(甲第三六号証)までは、下ハゼ部が立ち上がっているものの、上ハゼ部が下ハゼ部より軒先方向に突出していない形態の横葺き金属屋根を広告していたこと(原告が、同誌において上ハゼ部が下ハゼ部より軒先方向に突出する組合せ形態の横葺き金属屋根板の広告をするようになったのは、本件証拠上は、昭和六一年八月号からである。)、
以上の事実を認めることができる。
右事実によると、原告は、昭和六一年四月頃から、組み合わせると、別紙図面(1)のとおりの形態となる原告商品を製造販売していることが認められる。
三 原告商品の組合せ形態が周知性ある商品表示ないし営業表示に当たるか否かについて検討する。
1 前記甲第一六号証ないし甲第二七号証、甲第二九号証ないし甲第三三号証、甲第三七号証ないし甲第四九号証、成立に争いがない甲第三号証の一、二、甲第四号証、甲第六四号証ないし甲第一〇一号証、甲第一一四号証ないし甲第一一六号証、甲第一二六号証、乙第一号証の一ないし四、乙第二号証の一ないし三及び乙第三号証の一ないし四、東京都新宿区所在の常圓寺山門を撮影したことについては当事者間に争いがなく、また弁論の全趣旨により昭和六三年四月二七日に撮影した写真であることが認められる検乙第四号証並びに弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。
(一) 昭和四四年七月に発行された「建築板金材料便覧」(乙第二号証の一ないし三)には、上段屋根板と下段屋根板とが大きな段差をなした「林式スタンディング・デッキ工法」が紹介され、そこには、この工法の特長として、「美しいデザイン」と題して「横の線を強調したアーマサッチ(鎧葺き)工法」等と記載されている。
(二) 昭和四六年一〇月に発行された建築関係の雑誌である「ディテール」(乙第一号証の一ないし四)には、ホテルパシフィック東京の正面玄関の庇に、下段板の後部が立ち上がり、上段板の先端部が下段板の軒先方向に突出し、下段板と上段板との組合せ部分の段差に、高さ一〇ミリメートル、幅八ミリメートルの縦長のコ字状のくぼみが形成された、屋根様のものが掲載されている。
(三) 昭和五九年一月に発行された「亜鉛鉄板・着色亜鉛鉄板性能構法ハンドブック(一九八三年版)」(乙第三号証の一ないし四)にも、上段屋根板と下段屋根板とが段差をなした屋根がいくつか紹介されており、その中には、上段屋根板の先端部が軒先方向にやや突出して、上段屋根板と下段屋根板との組合せ部分にくぼみが形成され、そのため明度差のある段部になっている屋根板の組合せ(二九四頁<3>)も存する。
(四) 東京都新宿区所在の常圓寺山門においては、写真撮影された昭和六三年四月のかなり以前から、少なくとも原告商品が製造販売される昭和六一年四月頃以前から、下段屋根板後部が立ち上がるとともに、上段屋根板先端部が軒先方向に突出し、上段屋根板と下段屋根板との間にくぼみを形成する形態の屋根が設けられている。
(五) ロール成形により一定の規格に従って大量生産される屋根板の組合せ形態において、下段屋根板の後部嵌合部の直前に立ち上がりが存し、これにより上段屋根板との間にくぼみが生ずるものは、原告商品が最初である。
(六) 原告は、原告商品を別紙図面(1)のように組み合わせて販売しているものでなく、個々の屋根板を販売しているものであって、このため取引者又は需要者が原告商品の組合せ形態を見ることができるのは、既に屋根として葺かれた場合か、カタログや広告に掲載された解説図又は販売促進用のセットサンプルによる場合しかなく、既に屋根として葺かれた場合には、下段屋根板後部と上段屋根板先端部との嵌合状況を認識することができないし、また細部にわたる点についても認識することはできない。
(七) 原告商品の組合せ形態は、広告あるいは記事として、その断面図が多くの雑誌、業界新聞に掲載されているが、その断面図は、説明文とともに原告商品の特徴を明らかにするために記載されたものであり、またその図の近辺には、「元旦ルーフ」ないし「ダンカクルーフ」との商品名や、製造発売者としての原告の会社名が大きく記載されている。
(八) 原告作成のカタログにも、原告商品の組合せ形態の断面図や原告商品を使用して葺いた屋根の写真が各所に記載されているところ、その断面図も、原告商品の水密性、耐久性、防音性、強度、雪対策等の特徴を説明するためのものであり、またそのカタログにも「ダンカクルーフ」との商品名、製造販売元としての原告の会社名が明記されている。
2 右認定事実によると、原告商品が発売される以前から、下段屋根板と上段屋根板とが段差をなした横葺き屋根が相当数見受けられるばかりか、下段屋根板と上段屋根板とが大きな段差をなし、デザイン的に横の線が強調されたもの、上段屋根板の先端部が軒先方向にやや突出し、そのため下段屋根板と上段屋根板との組合せ部分にくぼみが形成され、明度差のある段部になっているもの、更にはそのくぼみの形状や大きさが後記のような原告商品におけるくぼみと同様なものも存在するのである。そうすると、原告において原告商品が従来の横葺き金属屋根との相違点として主張する上ハゼ部が下ハゼ部よりも軒先方向に突出する点及び原告商品の特徴として主張する<1><2><3>の特徴は、屋根板の組合せの形態としては、原告商品が発売される以前から見受けられるものであるから、原告商品がこれらの点を具備することを理由としてその形態に特異性があるということはできない。
また、原告は、原告商品が下ハゼ部の直前が数ミリメートルないし数十ミリメートル立ち上がっている点が従来の横葺き金属屋根と相違する旨主張し、なるほど下ハゼ部の直前が立ち上がっている形状の屋根板は、大量生産される屋根板としては原告商品が最初であることが認められるが、右認定のとおり、大量生産されたものかどうかはともかくとして、下ハゼ部の直前が立ち上がっている形状の屋根板は、原告商品が発売される以前から見受けられるものであるから、この点が原告商品の組合せ形態の特異性を根拠づけるということは困難である。また、取引者又は需要者、特に、建築関係、板金関係等の専門家以外の者が葺かれた屋根を見る場合、屋根が通常地上数メートルないし数十メートルの高さに設けられていることからすると、下ハゼ部の直前が数ミリメートルないし数十ミリメートル立ち上がっているかどうかを認識することは困難であって、このような取引者又は需要者において認識することの困難な細部をもって形態に特異性があるということはできないというべきである。
更に、右認定事実によると、雑誌及び業界新聞等の広告又は記事に原告商品の組合せ形態を示した図がしばしば掲載されているが、その図は原告商品の機能や特徴を説明するためのものであり、しかもその図の近辺には、「元旦ルーフ」又は「ダンカクルーフ」との商品名や、原告の社名が明記されているのであるから、取引者又は需要者は、原告商品に関する右のような広告や記事により、明記された商品名や原告の会社名により、原告商品の出所としての原告を知るのであって、雑誌・新聞等に掲載された商品の機能や特徴を説明するための組合せ図が、明記された商品名や原告の会社名とは別個に、それ独自に商品たることあるいは原告の営業たることを表示する機能を有しているということはできない。また、原告の発行するカタログに原告商品の組合せ形態の断面図や原告商品を使用して葺いた屋根の写真が掲載されているが、これには原告の商品名や原告の会社名が明記され、また原告の商品案内としてのカタログである以上、これを手にする者も原告商品や原告を十分認識しているから、右のような図や写真により示された原告商品の組合せ形態がそれ独自で商品たることあるいは原告の営業たることを表示する機能を有しているとは到底認められない。
以上のとおり、原告商品の組合せ形態が原告主張のような特徴等を具備するものではなく、その組合せ形態に特異性があるとは認められないし、雑誌・業界新聞及びカタログ等に記載された原告商品の組合せ形態を示した図や写真が商品や営業たることを表示する機能を有しているわけではないから、原告商品の組合せ形態は、不正競争防止法一条一項一号にいう「広ク認識セラルル他人ノ商品タルコトヲ示ス表示」及び同法一条一項二号にいう「広ク認識セラルル他人ノ営業タルコトヲ示ス表示」には当たらないというべきである。
3 原告は、前記のホテルパシフィック東京の正面玄関にみられる前記形状のものは、パラペット・パネルと呼ばれる外壁の化粧の一種であって、屋根ではない旨主張するが、仮に原告主張のとおり、厳密な意味における屋根ではないとしても、前掲乙第一号証の一ないし四によると、庇として、陸屋根部分の周囲を取り囲むように、水平から約四〇度斜め下に傾斜した角度で設置されていること、したがって屋根と同様の機能を有し、見た目にも屋根と感じさせるものであることが認められるから、特に専門家以外の者が認識する葺かれた屋根の形状を検討するに当たっては、これを屋根と同様に扱い、その検討の資料とすることに何ら差し支えはないものである。
また、原告は、前記常圓寺の屋根、その他原告商品と類似する屋根と原告商品との形態の相違について、これら原告商品と類似する屋根は下段屋根板のハゼ自体が立ち上がっているのに対し、原告商品においては下段屋根板のハゼ前の部分が立ち上がっているものであって、ハゼ前の部分の立ち上がりによって、立ち上がりと奥行を増し、著しく立体感を増した旨主張する。しかし、仮に原告主張のようにハゼ自体の立ち上がりか、ハゼ前の部分の立ち上がりかの差異があるとしても、この差異が、原告主張の「立ち上がりと奥行」の違い、立体感の違い、更には原告が原告商品の形態の特徴と主張するところに影響を及ぼしているものとは到底認めることはできない。そして、原告商品においては、ハゼ自体ではなく、ハゼ前の部分が立ち上がっているとしても、葺かれた屋根を見た取引者又は需要者がこのような細部を認識することは困難であるから、前記のとおり、このことが原告商品の組合せ形態の特異性の判断を左右するものではないといわなければならない。
更に、原告は、弁論の全趣旨により真正なものと認められる甲第五九号証の一ないし二五五、甲第六〇号証の一ないし九八、甲第六一号証の一ないし三四七、甲第六二号証の一ないし二九四及び甲第六三号証の一ないし八三(いずれも屋根板の取引に関係していると思料される業者の作成にかかる「証明書」と題する書面)を多数提出し、これらには、原告商品の組合せ形態が少なくとも昭和六一年春頃から屋根業界等の間で周知であったことなどが記載されていることが認められる。しかし、いずれも同一書式及び同一内容の書面であって、これらの業者等が作成に当たり記載内容をどの程度理解していたか極めて疑問があるのみならず、その記載内容自体も前記認定事実に照らし採用できず、原告主張事実の認定に資することはできない。
四 次に、原告商品の組合せ形態と被告商品の組合せ形態との類否について判断する。
原告商品の組合せ形態を表した図面であることについて当事者間に争いがない別紙図面(1)、被告商品の組合せ形態を表した図面であることについて当事者間に争いがない別紙図面(2)、前記甲第四号証及び成立に争いがない甲第七号証によれば、
1 下段屋根板及び上段屋根板で形成されるくぼみの形状は、原告商品の組合せにおいては、下段屋根板の平面部から上段屋根板の平面部までの立ち上がり寸法が二八ミリメートルの商品の場合には(甲第四号証の三、四頁)、下ハゼ部直前の立ち上がり部分の高さは八ミリメートルであり、上ハゼ部の軒先への突出部分の長さは、右立ち上がり部分の高さより短い五、六ミリメートル程度であって、縦長のコ字状であるのに対し、被告商品の組合せにおいては、ハゼ部山高が一八ミリメートルの標準商品の場合には(甲第七号証の四、一五頁)、下段屋根板の後部立ち上がり部分の高さは一二ミリメートル、軒先への突出部分の長さは二二ミリメートルであって、上部がヘ字状に中央部付近から斜めに下がった横長のコ字状であること
2 くぼみを形成する屋根板は、原告商品の組合せにおいては、下部及び立ち上がり部分が下段屋根板で、上部が上段屋根板で構成されているのに対し、被告商品の組合せにおいては、下部、立ち上がり部分及び上部の奥の傾斜部分が下段屋根板で、上部の開口よりの部分が上段屋根板で構成されていること
が認められる。
右事実によると、原告商品と被告商品の各組合せ形態は、くぼみの立ち上がり部分が下段屋根板で構成される点で同一であるものの、前記のように、横葺き屋根板の組合せにおいて、上段屋根板と下段屋根板との間に段差があり、しかも下段屋根板後部と上段屋根板先端部によりその段差にくぼみが形成される形態のものは従来から見受けられものであって、このこと自体に目新しさはなく、原被告商品の形態の類否を検討するに当たっては、くぼみの形状が重要な要素になると考えられ、下段屋根板及び上段屋根板で形成されるくぼみの形状及びくぼみ上部を形成する屋根板において相違するから、両者は類似していないものというべきである。したがって、仮に原告商品の組合せ形態及び被告商品の組合せ形態が商品表示あるいは営業表示に当たるとしても、両者は「同一若ハ類似」でないと認められる。
五 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 宍戸充 裁判官一宮和夫は、差し支えにより署名捺印することができない。 裁判長裁判官 西田美昭)
目録(一)
名称を「ダンカク屋根」とする、別紙原告商品図面表示のとおりの横葺き金属屋根板
(なお、図面につき、左側面図は、右側面図と対称になっているため省略し、また正面図、背面図、平面図及び底面図は、それぞれ左右方向に連続する。)
原告商品図面
<省略>
目録(二)
名称を「日輪段葺」とする、別紙被告商品図面表示のとおりの横葺き金属屋根板
(なお、図面につき、左側面図は、右側面図と対称になっているため省略し、また正面図、背面図、平面図及び底面図は、それぞれ左右方向に連続する。)
被告商品図面
<省略>
図面(1)
原告商品の組合せ形態図
<省略>
図面(2)
被告商品の組合せ形態図
<省略>